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フォースタ社員のエンジニアたちが思い思いのことを書き綴ります。

アウトプット2倍への挑戦。ハードな基幹システムの移管を打開する「SPACE」の“S”向上戦略

はじめに

こんにちは。テクノロジーグループでエンジニアリングマネージャー(EM)をしている八巻(@hachimaki37)です。

今、私たちのグループは、Rails + Vue.js on AWS(ECS)で構築された10年運用中の基幹システムをNext.js on Salesforceへ移管するプロジェクトを推進しています。移管期間は1年間という、控えめに言ってもハードなミッションに挑んでいます。

2025年4月にプロジェクトはスタートし、2026年4月の本番リリースを完遂するためには、昨年度の開発アウトプット量では、物理的にロードマップの達成が不可能なことが分かっていました。

この絶望的なギャップを埋めるために、私たちが導入した武器が、開発生産性フレームワーク「SPACE」です。

特に、定性的で後回しにされがちな「S:Satisfaction and well being(満足度と幸福度)」を戦略的にハックし、前期比でアウトプット量(PRマージ数)が195%まで引き上がりました。

今回は、その「それっぽくも真剣な」改善の裏側を書いていきます。

注記:

  • プロジェクトはまだ道半ばです。この取り組みは、アウトプット向上の一つの取り組みでしかありません。
  • SPACEについての詳細説明を省いておりますので、適宜専門記事等をご参照いただけますと幸いです。もしよろしければ こちら をご一読いただけますと幸いです。

目次

グループの変遷

本編に入る前に、私たちのグループの変遷について触れておきます。以下は、2024年12月から2026年1月までの推移です。

現在、私たちのグループは職能を横断した9名の「クロスファンクショナルチーム」で構成されています。

  • Manager:1名
  • PdM:1名
  • Engineer:5名
  • SRE:1名
  • UI/UX Designer:1名

戦略の全体像

2026年4月のリリースをデッドラインとしたとき、ハードなプロジェクトを攻略するために、精神論ではない以下の3つの因子を成功の柱と定義し、2025年4月から推進してきました。

  1. 開発生産性の向上(デリバリースピード):昨年度の開発アウトプット量では、どう計算してもロードマップに届きませんでした。AI活用を主軸としたデリバリースピードを探求し、アグレッシブに「デリバリー能力を改革する」必要がありました。

  2. メンバーのエンゲージメント向上およびリスクマネジメント:大掛かりな移管プロジェクトを完遂する上で、恐るべきリスクは「人の離脱」と「心理的疲弊による停滞」です。1年という長丁場において何より重要なのは、個々のメンバーが前向きに挑戦し続けられるコンディションを保つことです。そのためには「S」の充足こそがプロジェクトの生命線になると考えました。

  3. 現行システムの安定稼働:新たな基幹システムへリプレイスする一方で、現行システムが不安定になれば、エンジニアのリソースは奪われてしまいます。機会損失の回避と開発コスト最適化のため、現行システムの安定稼働は「必須条件」でした。新たな基幹システムの開発にリソースを集中させるため、現行の障害対応コストを最小化する必要がありました。

これら3つの因子の問題を一つひとつ解消し続けた結果、一人ひとりの飛躍的な成長と活躍により、現在、ロードマップは達成基準を上回るペースで進捗しています。

ここからは、その中でも特に「2」の改善にどう取り組んだのか、詳細をお伝えします。

Wevoxを利用したSの可視化と改善

Satisfaction and well beingは、目に見えにくい指標です。ピーター・ドラッカーの名言において、「測定できないものは改善できない」という言葉があります。そこで私たちは、エンゲージメントサーベイツールWevox(ウィボックス)を導入しました。

特筆すべきは、これは会社全体で一律に導入されたものではなく、私たちのグループが独自に、意思を持って導入・活用しているという点です。

導入背景と「S」への想い

Satisfaction and well beingは、個々の充実感や心身ともに満たされた状態に対する指標です。これを測定することで、グループの状態の可視化が可能になります。その測定をもとに改善のサイクルを回し、より意義のある1on1や組織改善を行いたいと考えました。

また、私がグループ運営において最も大切にしているのは、自分たちのグループ、そして自分自身に責任を持ち、充実感や心身ともに満たされた状態を「会社に委ねる」のではなく「自らの意思で作っていく」ことです。マネージャーだから、メンバーだからといった役割の垣根を超え、全員が当事者として「自分たちの手で、自分たちを変革していく」組織でありたいと強く願っています。

なぜなら私たちは、「成長産業支援プラットフォーム」への進化を目指し、共にイノベーションを起こして新しい時代を創る企業であるからです。単なるシステム開発集団ではなく、私たち自身の変革こそが、社会を変える原動力になる。その根幹にあるのは「自らを進化させ続ける力」に他なりません。組織と個人のありたい姿の重なりを増やし、互いを高め合える幸せな関係を築いていけるといいですよね。

利用目的

Wevoxの利用目的は、以下です。

  1. 可視化による改善: グループおよびメンバーの状態をデータで捉え、具体的なアクションに繋げること。

  2. 自走する組織づくり: マネージャー/メンバー参加型で当事者意識を持ち、自分たちで自分たちのコンディションを再現性を持ってコントロールできるようにすること。

実施方針

私たちは、四半期に1回の頻度で計測しています。これは、日々のコンディションを追う「パルスサーベイ」よりも、組織の構造的な課題や文化の浸透度をじっくり捉える「センサスサーベイに近い使い方をしています。短期的な一喜一憂ではなく、中長期的な組織の「健康診断」として活用しています。

これまでの実施回数は以下の通りです。

  • 一回目:2025年06月
  • 二回目:2025年09月

一回目の結果

初回のWevoxスコアは「B+(80)」と水準は高いものの、詳細を分析すると中身には深刻な課題が見えていました。

Good要素

Bad要素

見えてきた最大の問題は、グループの「精神的疲弊」でした。 スプリント単位で行っているレトロスペクティブや日常の定性評価を突き合わせて課題を分析していくと、ある仮説に辿り着きました。それは、メンバーを削っているのは高稼働による肉体的疲弊そのものよりも、「リリース後の不安」や「プラットフォームの制約による技術的な閉塞感」といった、精神的な不確実性(不安)なのではないか、ということです。

実施したアクション

今回のアクションにあたり、不安を「成長」と「納得」に変えることを全体方針に定めました。

6月の結果を受け、単なる休息を促すだけでは根本解決にならない、より構造的なアクションが必要だと判断しました。具体的には、以下の二つのアプローチを軸に据えました。

①1Q振り返りワークショップによる解像度の向上

解決すべきテーマを「不確実性要素の解像度向上」と「プロジェクト意義の再認識」に定め、7月にLean Coffeeなどを活用しながらいくつかのワークショップを実施しました。

ワークショップの様子

ここでは漠然とした不安(精神的負荷)を、可能な限り具体的かつコントロール可能な状態へと分解していきました。1年という長丁場では、日々の作業がどうしても定型的な移管に感じられ、閉塞感が漂ってしまいます。そこであえて今、プロダクトの未来という「意味」を接続し直すことで、作業を「価値創造」へと昇華させるための対話を重ねました。

②自己成長期間の創出とデリゲーション

スコアの低かった「自己成長」への打ち手として、デリゲーションに挑戦しました。

単なる作業の割り振りではなく、メンバー個々のキャリアに紐づく「挑戦」を、移管プロジェクトの中に強引にでも作る。これにより、「やらされている移管」から「自ら進めるリプレイス」へと、メンバーのマインドをシフトさせることを狙いました。

二回目の結果

四半期ごとの計測を実施した結果、9月のスコアでは、全体スコアに数値の変化は見られませんでした。ただし、項目に細かな変化が見られました。

上がった要素

前回比較

  • 自己成長:+4(70 → 74)
    • 成長機会:+6(76 → 82)
  • 健康:+5(68 → 73)
    • 仕事量:+5(71 → 76)
    • ストレス反応:+6(65 → 71)
  • 組織風土:+1(82 → 83)
    • 挑戦する風土:+2(78 → 80)
    • 部署間での協力:+2(86 → 88)

この数値の変化は、それぞれが自らの役割を拡張し、不確実性という「不安」に対して「どう立ち向かうか」を自ら考え、行動してきた結果だと考えています。

自己成長の要素において具体的には、意思決定の一部をメンバーへ委譲してきました。これはまだやりきれているわけではなく、道半ばではありますが、メンバー一人ひとりが自らの判断で「自分の領域」を広げる手応えを少しずつ感じ始めているのではないかと考えています。

下がった要素

前回比較

  • 人間関係:-5(87 → 83)
    • 上司との関係:-5(88 → 83)
    • 仕事仲間との関係:-3(87 → 84)
  • 承認:-2(78 → 76)
    • 発言・意見に対する承認:-10(92 → 82)
  • 理念戦略:-3(80 → 77)
    • 事業やサービスへの誇り:-4(69 → 65)

実施したアクション

一方で、人間関係や承認のスコアが微減(-5〜-10)した場面もありましたが、これはプロジェクトが佳境に入り、意思決定に伴う健全な対立が増えた結果と捉えています。これらは個別のフォローで解決するフェーズへと移行しています。

また、理念戦略における「事業やサービスへの誇り」へは、理念戦略に訴求するような「25年度下期キックオフ」を10月に実施しました。

主にこの場では、「グループのコラボレーション促進」と「下期方針の理解」を目的に実施してきました。

結果と成果

この取り組み以外にもグループで様々な改善を進めてきました。その前提ではございますが、一定「SPACE」の“S”への戦略的な投資は、結実したと考えています。また、このプロジェクトにおいて、グループの人数を純増できたことも大きな成長の一つですが、人数が2倍になったからアウトプットが2倍になったわけではありません。紆余曲折がありました。

エンジニア間はもちろんのこと、PdMやデザイナーとの緊密な連携なしには、アウトプット2倍への挑戦は到底見込めませんでした。限られたリソースの中でいかに個々のパフォーマンスを最大化し、チームとしての出力を高めるか。その組織の質へのアプローチこそが、今回の195%という数字の根幹であると考えています。

①開発生産性の向上

1人あたりのプルリク作成数(開発フェーズによるトレンドがあるため参考程度に)

プルリク作成数:194%(前期比)

マージ済みプルリク数:195%(前期比)

開発生産性スコア:2025年4月から「Elite」ランクを継続達成

Findy Team+ よりデータを引用

②現行システムの安定稼働

  • 変更障害率:約30%ほど改善
  • 平均修復時間:目標指標を大幅に下回るスピードで解決

さいごに

9名のクロスファンクショナルチームが、前期の約2倍の速度で邁進し続けています。この高い壁を乗り越えるためには、厳格な管理で縛ることではなく、チームが最大限に輝ける“S”の状態を戦略的に作り、維持することがはるかに重要であると考えています。

開発はまだ道半ばです。今回の“S”向上戦略を通じて、自分たちの状態を可視化し、対話によって自ら変革していくことの重要性を会得できたことは、チームにとっても大きな財産になったのではないかと思います。

これからも、数字と心の両面に向き合い、このハードなミッションの完遂に挑んでいきたいと思います。