for Startups Tech blog

このブログのデザインを刷新しました。(2023/12/26)

【フォースタ テックブログ】デザインスプリントをやってみて開発チームの目線を整えた話

 

はじめに

こんにちは!フォースタートアップス / テックラボ * の藤井(@yutafujii)です。
社内向けのプロダクト「タレントエージェンシー支援システム(SFA/CRM)」*のサーバーサイドエンジニアとして日々活動しています。

*テックラボ…テクノロジーとデザインによってfor Startupsをグロースさせるチーム
*タレントエージェンシー支援システム(SFA/CRM)…日本を代表するスタートアップと、それを加速させることができるタレント(才気あふれる人々)とのより多くの対話の機会を創出するための「マッチングプラットフォーム」

これまで少人数のエンジニアでスピードや機能を優先して開発を進めていたのですが、弊社にUXデザイナーが入社してきたことをきっかけに、プロダクトが巨大化する前ということもあり一度立ち止まってデザインスプリントを行うことにしました。

ここ数年で普及したデザイン思考、デザインシンキングをエンジニアが取り入れることで、

・プロダクトの目指すべきゴールを再度確認すること
・一つ一つの開発がきちんとゴールに向かっていると確信を持ちながら実装できる状態にすること

を達成したいと考えました。

デザインスプリントとは

デザインスプリントは一言でいえば「ビジネス課題に答える5つのプロセス」です。
デザインシンキングを取り入れて目的を達成しようとするアプローチのため、この名前がついています。

GV(Google Ventures)が提唱したプロセス(https://www.gv.com/sprint/)であり、UXデザイン・プロトタイピング・ユーザーテストをアウトプットとして、学びという新たなインプットを得る流れになります。

ソースコードは1行も書きません

デザインスプリントは一般的に、5日間、つまり丸一週間分をかけて行います。その概要は大まかに以下の通りです。

Day1: 意識合わせ・課題マップの作成・取り組む課題の選択

Day2: ソリューション出し(知の探索)・スケッチ・最終日にインタビューするユーザの選定

Day3: ソリューションを絞る(午前)・うまくいった姿までの過程をイラストに並べる(午後)

Day4: プロトタイプ作成(コーディングせずにUIデザインツールを使用する)

Day5: プロトタイプを用いたユーザーインタビュー・学び

プロセスが用意されていれば当然ながら各プロセスごとに道具(ツール・フレームワーク)もあります。
デザインシンキングの文脈で有名な Empathy Map もその一つです。
実際に行うときは、個別の事例に沿ってアレンジを加えると良いでしょう。

 

なぜやるのか

元々デザインスプリントは事業課題の答えを早いサイクルで見つけ出すことに適しています。

実際にコードを書かずに思考・プロトタイプ・ユーザーフィードバックにより仮説を検証するサイクルは魅力的なアプローチでしょう。

ただし私はそれに限られない良さがあると考えています。

それは、このプロセスを通して

・プロジェクトの目標の共有
・メンバー同士の考えや思考法の相互理解

という側面で効果があるためです。プロジェクトのブラッシュアップだけでなく、スタートアップなどの組織づくりにも有用です。

 

いつやるべきか

教科書的には、新たなプロダクトを実際にエンジニアが開発する「前」がベストなタイミングになります。
ただ、すでにプロダクトがあるという場合でも、例えば以下のような時には効果があると考えています。

・プロダクトが目標とする1年後の状態をすぐに言えない
・(技術的に)できることばかりを優先して開発している
・開発工数が小さい事項ばかり実装していることが2ヶ月続いている
・優先順位付けを行った結果のバックログが、プロダクトOKRのKRに貢献するものに見えない
・ユーザーのペルソナを聞くとメンバーによって回答がバラバラ。またはすぐ答えが出てこない
・ユーザーの課題を「それはまるで○○のよう」と身近な行為で例えてもらったときに回答がバラけてしまう。またはすぐ答えが出てこない
・とりあえずユーザーヒアリングを終えた
・チームメンバーが急激に増えている

など

 

ミニ・デザインスプリント

今回チームで実施したのは、このミニ版のようなものです。

1.事前に行ったユーザーヒアリングの内容を集約する
2.UXデザイナーが「一人デザインスプリント」を実施して叩き台となるレポーティング資料・ディスカッション資料を作る
3.チーム全員で資料の中身を議論する。発散して、収束させ、お互いの認識を"同期"させる

フレームワークに従ってレポートまで作ってくれたデザイナーさんに感謝です!

 

ゴール

最初にデザイナーが示したゴールはこちらです。

「メンバー全員が事業の目的・事業課題・プロダクトビジョン・ペルソナを共通認識として持つこと。誰に聞いても同じ答えが返ってくることで、新規メンバーとも課題や目的を共有出来る」

ちなみにこのゴールはとても重要で、起業家が集うBARで、とあるCTOに「まずはとにかくユーザーを知ること。徹底的に足を運び、エンジニアの誰に聞いても全く同じペルソナが返ってくるような状態にしなさい」と言われました。

 

雰囲気作り

見落としがちですが、雰囲気作りはとても重要です。

ゴールを達成するためには参加者に対してどのような姿勢で望んで欲しいのか、どのような行動を望むのかを最初に共有するとすごく良いです。

また、それをサポートするような小物を用意することも大事だったりします。

今回のゴールは「共通認識を持つこと」なので、ちょっとでも意見が違ったり違和感があったら遠慮せず発言することが望まれます。

本心で腹落ちしていないまま終えてしまっては本当の意味で「認識を共有した」とは言えません。

 

そしてそのためには(1)意見を言える気楽さ、(2)柔軟な発想ができる環境を用意した方が良いと考えました。

そのために私たちが行ったことは次のことです。

・ちょっと息抜きをしたくなるおやつ時に実施した(15時からスタート)
・お菓子を事前に持ち寄って(一人で食べきれない結婚式の引出物とかも笑)テーブルに並べた
・食べながらでOK
・もちろんコーヒーも準備
・地べたに座ったり、机に座ったり、立ったりして参加してOK
・発言をとにかく褒める
・ジョークもいれてみんなで笑う、面白いトピックもいれる
・大きな画面を使う

 

使用したフレームワーク・ツール

ざっくりとこんなフレームワークや資料を使用しました。

・User pains
・State it Simply
・Persona
・Empathy Map
・Story Board
・Hills

 

User pains

今回はミニ・デザインスプリントなので、最初にユーザーヒアリング結果をUXデザイナーへ渡しました。
こんな感じで機能要望がざっと40個ほどカテゴリー分けされて並んでいました。

 

State it Simply

・What we do?(それを5歳児にわかるように)
・Who is the users?
・What is their pain?
・What is our business for?

この辺りを言語化します。
この部分はどのくらい先まで見据えるかによっても書く内容(ビジネスの展望や新たなステークホルダーをユーザーにする長期戦略など)が異なってきますが、目先1年くらいにするといいと思います。

もちろん、全社の長期戦略からバックキャストし、プロダクトの長期ロードマップを作って認識共有することも大事なので、それは別途行いましょう。

意外と盛り上がるのが「 ”何をするのか” を5歳児にも説明できるように」だったりします。余分なところが削げ落ちて、動詞や名詞が研ぎ澄まされていくのがわかると思います。

Pain(課題)を考える時も、「それはまるで○○のようだ」と表現することを意識する。

私たちがデザインスプリントを実施したときには

・「それはまるでパズルのピースを埋めるような状態だ」
・「それはまるで料理を30個同時に作っているような状態だ」

などの意見が出て、結局

・「それはまるでパズルを10個同時に作っているような状態だ」

となりました。

 

Persona

ペルソナを設定します。

家庭環境・育ち・趣味・仕事への姿勢や性格などを具体例を含めながらその人のイメージが湧くまで書いていきましょう。

箇条書きで大丈夫です。

その人の名前もつけておくとその後何かと便利です(私たちは山崎翔大さんと飯山美咲さんというペルソナを作り上げました)。

実際には、この部分が最も大事です。

プロダクトによっては複数タイプのユーザーを抱えることがあると思います(プラットフォームがその典型)。その場合はそれぞれについてペルソナを立てて進めましょう。

 

Empathy Map

次に、山崎さんや飯山さん(=ペルソナ)が”言いそうなこと”、”やりそうなこと”、”考えそうなこと”、”感じていそうなこと”を書き表していきましょう。

特にTHOUGHTとFELTの部分は、なぜそれらが表に出てこない(口に出したり、行動にならない)のかを深く考えてみることが大切です。

 

Story Board

今のペルソナユーザーの状態(課題を抱えた状態とします)から、ユーザーが為したいことに至るまで、プロダクトがどんなふうに関与していくかを4コマ漫画的に絵と端的な言葉で書き表していきます。

私たちは6コマを用いて、今のユーザーが “こうして、こうして、こうなって、こうなって、ゴールの姿になる” 、という過程を描きました。

*引用元:https://uxdesign.cc/how-to-storyboard-experiences-fc051e2bc04d

 

Hills

プロダクトによって「誰が(Who)、どんな感じに(Wow)、何を(What)達成してる」のかを改めて考えます。

最も大事なのはWowです。Howではありません。

方法論から考えるのではなく、状態から考える。

描いた理想像では、ユーザーが「どんな気持ちを持って」「どんな感情で」成し遂げたかったコトを達成しているのだろうか?そういった視点が求められます。

どういうことか、少し思考例を示します。

 

例)30分かかるMRIでじっとしていられない子供に、MRIを受けてもらうには?

→ 鎮静剤を打つ(How)のではなく、MRI室を海賊船のようにして楽しみながら受けてもらおう(Wow)

ちなみにWowを考えるというのは、グロースハックでも出てくるアドバイスです。
ユーザーにとってのアハ・モーメント* の発見がPMF達成のサインといってもよいでしょう。

*アハ・モーメント…プロダクトの価値をユーザーが最大限に感じた瞬間

 

イデアリストの順位付け

ミニ・デザインスプリントでは以上を元にして、ペルソナとしたユーザーがStoryBoardに出てくるゴールの姿になるためのアイデアを出しました。

最後にそれらを、縦軸に各アイデアインパクト、横軸に効果の不確実性を描いてそれぞれのアイデアがどのあたりに位置するかマッピングしました。

当然ながら「インパクト大・確実性が高い」というゾーンが優先的な開発事項ということになります。

これらを見つめ直したところでスプリントを終了し、ちょっとした振り返りを行いましょう。

 

やってみてわかったこと

シンプルな本質を見つめることができる

今回4時間をかけて実際にやってみて、最初に感じたのは自分たちが何を作っているのかをちゃんと言語化できていないということです。

何となくでは説明できたけれど、「それって何?」のように1つ突っ込んで質問されるとスラスラと答えられなかったり、参加したエンジニア4人の認識や想いが完全に一致しているわけではなかったり…。

“誰に聞いても同じ答えが返ってくること” という状態を実現するには膝を突き合わせる時間と議論のフレームワーク(=デザインスプリント)がとても有効だと感じました。

 

Vision Driven

また、みんなで話すと自分の考えやチームとしての見解がどんどん研ぎ澄まされるというのも全員で実感しました。

 

この過程で最も重要な役割を果たしたのがMission, Vision, Valueです。

何度も何度も

「でもそれはMissionにある○○に添わないよね」とか

「私たちのMissionは○○だから、5歳児に説明すると○○な感じかな?」とか

「あの時CEOが○○って言ってたのを踏まえて○○の方がフィットする」とか、

会社として実現したい世界や数年先のゴールを意識して目の前に落とし込むことができました。

フォースタートアップスでは1週間に1回は全社MTGでCEOより、熱意や今の想いが聞けますし、毎週Slackでも欠かさず “今、考えていること” を共有してくれます。

そういうカルチャーにもとても助けられました。

 

フォースタートアップスのMVV (出所:会社HP

 

The Team

実際にやってみて、デザインスプリントはチームそのものを強くすると感じました。

私たちは普段からコミュニケーションがとても活発なチームだと思ってはいますが、プロダクトの本質やゴールを何時間も使ってみんなで議論すると、お互いをもっともっと深く理解することができます。

部活の合宿のような感覚で、長時間すぐ傍で過ごしてチームとして強くなるイメージかも知れません。

中には意見に相違があったり考え方が異なる部分もありますが、「同意」できなくてもいいのです。「理解」することがとても重要です。
お互いを知り、理解し、その上で一つの方向を向く。仲間を信頼する。

そのためにもデザインスプリントはいい時間になるはずです。

最後に

長々と書かせていただきましたが

社内向けのタレントエージェンシー支援システム(SFA/CRM)についてデザインスプリントを行った感想でした。

私たちは、日本を代表するスタートアップと、それを加速させることができるタレント(才気あふれる人々)とのより多くの対話の機会を創出するための「マッチングプラットフォーム」を創るという壮大なプロダクトを作っています。

試行錯誤しながら、日本から世界で勝つスタートアップ支援を行っていきたいと思います。